岩瀬投手が打たれた話

元中日の岩瀬投手は、通算で日本シリーズの失点はない。ものすごい成績だ。

ただ、同じポストシーズンと呼ばれるクライマックスシリーズでは1点だけ取られている。元巨人の阿部捕手からのホームランである。

 

2010年11月22日ナゴヤドームでのクライマックスシリーズも母と見に行った。チケットがなかなか取れず、中日・巨人の両ファンが座る3塁側内野席で観戦した。

 

8回まで巨人が2点リードしていたが、中日は、巨人リリーフ陣の一角をになっていた越智投手から代打の野本選手が同点2ランで追いつく。

それはもう大興奮の場面であった。野本選手の強く引っ張った打球は今でも思い出すことができるし、ナゴヤドームの大歓声にも鳥肌が立った。

(これが野本選手の現役時代のハイライトとも言えるシーンであるのが少し悲しいが、素晴らしい一打だった。浅尾選手との引退試合を見に行った話もまた書きたい。)

 

次の9回表、中日のマウンドは岩瀬投手。私と同じく、多くの中日ファンは「岩瀬なら、まあ大丈夫だろう」と思っていたはずだ。まあ、というのはランナーは出しても点は取られんだろう、という感情を含む。

安心しきってみていると、阿部選手にうまく合わせられてフェンスのすぐ上に入ってしまった。ナゴヤドームのフェンス上段、黒い幕が寂しく揺れた。先程の2ランよりも鮮明に思い出せる。

 

この試合は中日が負けた。残念だ。一方でこのように岩瀬投手ポストシーズンでの唯一の失点試合であり、貴重な一線であったとも言え、感慨深く思い返せる試合を見れたことを嬉しくも思う。

 

試合開始前、3塁ベース付近でキャッチボールをしていた巨人のたぶん、朝井投手を見て母が、「野球選手は大きいねえ」と”何を今更”なことを口にしていたのも何故か感慨深い。子どものようにはしゃぐ親を見れたからだろうか。

 

帰り道、ナゴヤドームから矢田駅までの間、中日ファンは落ち込んでいた。しかし、岩瀬投手を責める人はいなかった。あの場面で岩瀬投手以外の選択肢は無く、みんながそれをわかっていたからだ。負けても納得できる試合、そういう試合をまた見たい。